はじめに
岡田将生さん主演の「伊藤くん A to E」を観た感想について、以下で述べていこうと思います。
若干の(?)ネタバレを含みますので、まだ見ていない、ネタバレ嫌だ、という方はUターンお願い致します。
あらすじ
「伊藤くんA to E」という作品は、岡田将生さん演じる伊藤くんが5人の女性を振り回し人生を翻弄する、というものです。
映画上映当時も「クズ男の話」として話題になり、また岡田将生さんご自身もインタビューに対して「なるべく嫌味な男になるように」演じたと答えています。
というここまでは事前情報で、実際に観てみると、
伊藤くんは木村文乃さん演じる矢崎女史が講師をつとめる脚本家スクールに通う学生。
また、矢崎女史は「話題作を生み出し現在は執筆活動で女性から絶大な支持を集めるも、次のヒット作を書けない落ち目の脚本家」という設定です。
「伊藤くんA to E」は、
最後に生き方について論じるという作品になっています。
感想
事前情報しかなかったので「どうせクズの映画なんだろうな」と思って観ていました。結論から言うと、
伊藤くんはクズです。
ただそれは、女性への態度が、という話であって、最後に述べられる伊藤くんの考え方は批判できるものではないと思うんです。
弱者の理論と強者の理論
以下では、映画の終盤、2人の会話から抜粋して、弱者の理論と強者の理論についてまとめます。
弱者の理論
伊藤くんが「脚本を書き上げない、完成させない」と宣言。「理由はない、強いて言うならゼミのみんなの驚く顔が見たかった」と語る。
それに対し矢崎女史は「みんなあんたを嫌ってるし、うざいと思ってるし、笑ってる」と言う。
その言葉を受けた伊藤くんは表情を一切変えず、「僕だってみんなを笑ってる。僕にはコンプレックスがない。闘争心がない、レースに参加する気がない」
矢崎女史「それを私が許してあげてたって気づかなかったの?」
伊藤くん「それで勝った気になってたんですね」
ここからが伊藤くんの真骨頂です。まさに弱者が負けない為の理論。
これって、確かにその通りだと思うんです。
弱肉強食の社会において、弱者が無傷で生き残るには、はじめから戦わなければいい。競争社会の競争に混ざらなければ、負けること、潰されることがない。
たとえ周りから嫌われようが、笑われようが、「周りと合わせる、競う」という概念をそもそも持たなければ、周りになんと言われようとかまわないんです。
強者の理論
それに対し、伊藤くんに強者の理論と言われた矢崎女史の理論はこうです。
勝つためにリングに立つし、何度でも起き上がる。伊藤くんとはまさに正反対の意見です。
矢崎女史は本当に強者か
ただ、矢崎女史が本当に強者なのかというと、疑問が残るんです。
というのも、矢崎女史は作中で、
と発言しているんですね。そして彼女自身、愛していた人に裏切られ、捨てられた経験を持ちます。そして、
と語るんです。
これ、全然強くないですよね?
落ち目の脚本家、恋人に裏切られた、そこから前に進めない自分。
誰だって傷つきたくないという言葉が表すのは、傷ついた経験があり、未だにそれを怖れているということ。
わたしは、これはこれで、弱者の理論な気がするんです。
社会的に成功した強者から発せられる言葉とは、どうしても思えない。
確かに弱者の理論である伊藤くんとは真逆の意見かもしれないけれど、強者の理論とするには、
なんですよね。周囲を気にして、批判を怖れて、それっていわゆる「弱者」のすることじゃありませんか?
最後に
わたしがこうして「弱者」と「強者」の関係について考えたのは、以前Twitterで、
「強者と強者はぶつからず、
弱者は強者を一方的に恨み、
弱者と弱者は潰しあう」
という議論を見たからなんですね。
そのときは「気持ちの悪い議論だな」とあまり深く考えなかったのですが、そのタイミングでこの映画を見てしまったので、
「強者と弱者の二項対立は正しいものなのだろうか」
と考えてしまったのです。そして、
「弱者の中にも、はじめから逃げる弱者と、
傷つきながらも立ち上がろうともがく弱者がいるのではないだろうか」
と考えました。
そして「弱者と強者の二項対立ではなく、弱者にも2パターンある」と一度結論付けたのですが、ここでまた疑問が生じました。
わたしの定義する弱者、強者の概念が曖昧で申し訳ないのですが、実際問題として、伊藤くんのように
「他者からの批判を気にせずいられる人物」
って少ないと思うんです。
そしてそれは、Twitterで語られていたような、「闘うことのない」強者の像と結びついたわけです。
そして、
そう感じたわけです。
とにかく伊藤くんは、
闘わない時点で、唯一無二の存在として自分を認めている
と思いました。
そしてそれは周囲から「逃げ」だと評されようと、あらゆるものを跳ね返す力をもつわけですよね。
きっと、「気にしない」自分を維持する精神力も相当なものだと思います。
だからこの作品に対するわたしの感想としては、
そういうことを意図した作品なのかなと。
でもそう感じざるを得ない何かをもつ、不思議な作品でした。
そしてわたしの意見としては、
ということです。
つたない感想、考察でしたが、ご覧いただきありがとうございます。
宜しければ感想などいただけると幸いに存じます。