はじめに
ここでは、わたしが2018年作成したアジア理学療法学生協会の参加国会議大会(コングレス)において日本が発表した「発達性協調運動障害:DCD」について、その作成元となった論文を中心とした草案です。
元論文はElsevierより、
です。
概要
DCDの定義
DCDの定義:学術的な達成や日常生活を著しく妨げる協調運動障害を特徴とする状態(By APA, 2000)
DCDで障害されるのは大まかに3領域
- 姿勢制御の困難さ
- 新しい運動スキル学習の困難さ
- 感覚・運動協調性が欠如
論文の導入部分
DCDの子どもたちは、総じて不器用であるが、
- その不器用性が小脳障害をもつ患者と類似していることから、不器用さは小脳に由来するものではないだろうか。
- 不器用さが修正されないのは、自分で不器用さに気づいていないのか、単に修正する能力がないのかは現在わかっていない。
なので、これらを調べるために「なぞり絵」で実験を行った。
実験内容
- 対象:7人のDCDの子どもたち(男6女1、他の発達障害に該当する症状がない)と7人のTD(定型発達)の子どもたち
- なぞり絵:電子端末などで花の絵を光の線で表示する。子供にはその花をなぞってもらう。
- 測定項目:一枚あたりの時間、時間当たりの枚数に分けてカウント。
- ルール:時間制限は花の絵(輪郭)の色で表す。絵を描かないとき(測定前後)は輪郭は赤色で表示される。緑色のときにだけ描いてもらう。
- 期間:実験は4日間。
- 測定日:1日目の1回目に測定。中2日間は測定せず実験と同じことを練習としてしてもらい、最終日にもう一度測定する。
結果
発達性協調運動障害(DCD)と定型発達(TD)で比較すると、
練習前
同じ運動タスクを課したとき、TDは主として楔前部を使うのに対し、DCDは前頭葉、頭頂葉、側頭葉にBOLD反応がある。
練習後
- なぞり絵のミス(はみだし方)について
DCDでは練習前と後で変化なし。TDでは練習後に有意にミスが減少。
- 時間あたりの枚数について
DCDでは増加。TDでは変化なし。
- 1枚あたりの時間について
DCDでは減少。TDでは変化なし。
考察
DCDではタスクに対する正確性は向上しないが、速度の向上は見られた。
しかし練習前後で脳活動に有意な変化はない。
TDよりも脳活動レベルの向上が少なく、BOLDシグナルも弱い。
特にブロードマンの右40(縁上回)、18(二次視覚野)、37(紡錘上回)、9(前頭前野背外側部)、左の40、右小脳脚Ⅰ、左小脳小葉Ⅵ、Ⅸの脳活動の低さが目立った。
右BA9縁上回の活性は、DCDでは練習前より減少、TDでは大きく増加した。
今回の実験結果は、DCDはTDよりも注意力に問題があるという他の研究とも一致する。
特にBA9の影響(注意か運動学習かあるいは両方)を受けていないとは言えない一方で、Querneは前頭前野領域の低活動を見ても、DCDの不器用は注意力の低下によると言えるのではないかと見解している。
これまでの研究においてのBA9における低BOLD信号とCADSにおける比較的高いスコアは、DCDの子供にとって注意力の欠落が運動スキルの獲得の影響を与える一因であることを示していると思われる。
この結果から、空間ワーキングメモリはなぞり絵というタスクの学習を支えていると思われる。
BA40のより高い活動により深く関連する因子は、BA40における感覚情報と視覚フィードバックの処理という役割である。
他の脳部位は仮説と関わりがないが一応触れておくと、
DCDとTDでは、特に左BA37紡錘状回と右BA18二次視覚野で重大な違いがあった。
DCDに比べてTDは反復練習するにつれて左BA37紡錘状回で高い活動を示した。
要約すると、仮説通り、DCDの子供は背外側前頭前野、下部側頭葉、小脳を含めたいくつかの領域でTDとは違う活動パターンを示した。
以前のニューロイメージング研究では前記3領域の機能的なつながりが示されており、それは、
と示唆するものだった。
テンソルイメージングの普及が、DCDにおいてそうした特殊なネットワークが構築されているのかを決定するのに役立つかもしれない。
まとめると…
今回の結果はDCDとTDの2グループのなぞる動作の正確性が脳活動パターンの違いに関連するだろうというものに見える。
サンプル数が少ないため重要な相関を検出するのは難しいと思うかもしれないが、実験者は「TDの子供たちが反復練習をこなすにつれて正確さが増し、いくつかの領域において脳活動が高まった」という記録を取っている。
対照的に、「DCDの子供たちは正確さには変化がなく、TDがあれほど向上した脳活動も比較的低くとどまっている」。
今回調べた領域の脳活動が運動パフォーマンスの向上に寄与するのかについて、もっと大規模な実験が必要である。
サンプル数が少なく一般性に欠けるが、今回の実験結果は次回以降の実験で必要なデータ数を計算するもとになるはず。
ミスをなくし、運動学習の次の段階に到達するには、なぞり絵というタスクは実験には難しすぎたかもしれないし、練習期間が短すぎたかもしれない。
DCD、TDともに、小脳は運動学習の途中段階にあることが活動度よりわかる。
参照;上記タイトル論文
終わりに
現在なされているDCDについての脳画像研究で入手できたのはこの論文のみです。
これは2007年のものですが、現在はより新しい論文が出ているかもしれません。
また論文が読め次第まとめさせていただきます。