はじめに
今流行の「難消化性デキストリン」というものがありますが、食物繊維に関係するので少し触れておきたいと思います。
デキストリンとは
まずデキストリンとは、デンプンを分解する途中で生じる多糖類です。
単糖類
αグルコース
グルコースは別名ブドウ糖として、脳の唯一の栄養素となることは広く知られていることだと思います。
中でもαグルコースは下の構造式で赤色のところの、ヒドロキシ基(-OH)の向きにご注目ください。
βグルコース
以下の構造式で表されます。ヒドロキシ基がαグルコースと逆についているものです。
写真:https://sci-pursuit.com/chem/organic/glucose_structure.html#2より
エステル結合とエーテル結合
多糖はこれらの単糖がエステル結合やエーテル結合(糖の場合はグリコシド結合と呼びますが)という2種類の結合をたくさん形成してできるものです。
エステル結合
エステル結合はカルボキシ基(-COOH)とヒドロキシ基(-OH)の間の結合で、
エーテル結合(グリコシド結合)
エーテル結合はヒドロキシ基同士の間の結合で、
という反応をして生じるもので、同時に水も発生します。
デンプンとデキストリン
デンプンやデキストリンはこうしてグルコースがエステル結合、グリコシド結合してできたものであり、特に数えきれないくらいの(何百万レベルの)グルコースが結合したものがデンプン、
デンプンを分解する途中で生まれる単糖の繋がり(でもデンプンほどじゃないもの)をデキストリンと呼びます。
大きさ順に並べると
となります。
マルトース構造式はこちら↓
なのでマルトースも含めると、
となります。
デンプンの分解過程
なぜデンプンから一気にグルコースまで分解しないの?というと、酵素の関係です。
アミラーゼという酵素はデンプンを分解することで有名ですが、実はすべての結合を切れるわけではなく、切れたり切れなかったりします。
酵素をハサミだと考えると、
デンプンという長い長い鎖があったときに、ハサミがいくつあっても鎖を短時間では切りきれないのです(^^;
そして、
ハサミ自身にも種類があり、
端から2個ずつ切っていく几帳面なハサミと、
ざっくりてきとーなところで切っていくハサミがあります。
このハサミの特性により、
と分解されるものと、
と分解されるものがあります。
ハサミであるアミラーゼが主に分泌されるのは、口の中と、(膵臓でつくられて)十二指腸です。
難消化性デキストリンについて
以上から、デキストリンについてはデンプンが吸収される途中でできるものだと、なんとなくわかっていただけたかと思います
ここで疑問なのが、なぜ「難消化性」なんてものが存在するのか、ではないでしょうか。
ということで論文読み漁ったところ…
デキストリンの難消化性の調査
デキストリンについて、消化のしやすさについて研究した論文があります。ざっくりまとめさせていただきますと、
デンプンは加熱(炊飯器レベルは軽く超えます)すると変性する。酸を加えて加熱しても変性する。なのでデキストリンもそういった処理をすると特性が変わらないか調べてみた。
とのことで、その結論が、
デキストリンを焙煎したりその他色々な実験をしてみると、特性の異なる3種類が得られた。その内ひとつはかなり消化されにくく、条件を変えたり、消化されにくい部分だけを集めることによって最大90%消化されずに便として排泄されるデキストリンを作れた。
とのことでした。
ということから、とうもろこしや馬鈴薯などのデンプンを少し加水分解(酵素がする働きを人為的にする)してデキストリンを作り、それに加熱などの処理をした上で、粘性のほとんどない白い部分を集めたら、難消化性デキストリンの(粉の)塊が完成、というわけですね。
整理すると、
という問いに対しては、
となります。
難消化性デキストリンの効能
難消化性デキストリンなんてものをどうしてわざわざデンプンの中から作り出したかというと、一般的に食物繊維と呼ばれているセルロースの摂取だけでは、必要な分の食物繊維の摂取が難しいとされたためです。
なので、この難消化性デキストリンを色々な食材や飲み物に混ぜてしまえば、多少甘味もあるので砂糖みたいになるし、食物繊維が摂れるし…と重宝されてきています。
ちなみにこの色んな処理を経て作られている難消化性デキストリンですが、アメリカでは摂取上限を定める必要がないほど安全と言われています。
また食物繊維最大のデメリットである「摂りすぎるとミネラル吸収を阻害する」というものですが、難消化性デキストリンは阻害しないことがわかっています。
安心安全でデメリットなし、麦茶やコーヒーに粉末を入れて飲むだけでも食後血糖値の急上昇を抑える効果があるって、すごくないですか⁉
他にも効果をまとめると、
- 糖の吸収速度を抑える
- 脂肪の吸収速度を遅くする
- 整腸作用がある
- 内臓脂肪を低減させる
となります。
食物繊維が大切かもしれないMSに、またMS以外でも胃腸の調子でお悩みの方に、一度お試ししてみてはいかがでしょうか。
参考になれば幸いに存じます。
参考:中学高校理科化学教科書及びhttps://fromhimuka.com/chemistry/583.html
https://scholar.google.co.jp/scholar?q=難消化性デキストリン&hl=ja&as_sdt=0&as_vis=1&oi=scholart#d=gs_qabs&u=%23p%3DmkDg2eeso8MJ
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jag1972/37/2/37_2_107/_article/-char/ja/