そんなフレーズが頭に浮かんだ。
本家は少女漫画の「弟の顔して笑うのはもうやめる」だと数時間経ってから気づいたけれど、
平気な顔して笑うのはつらいよなと、何時間も共感し続けた。
これはコロナで散々承認が遅らされ、それでもアメリカはもう承認されたのにと日本政府を恨み、そんなことしても何も変わらないよなと諦めるほどに待ちわびた新薬「オファツムマブ/抗CD20抗体」商品名「ケシンプタ」でもがき苦しんだ体験談のひとつ。
ケシンプタ使用の経緯
目が見えなくなっている、しゃっくりが止まらない、痙攣が酷くなっている…などの症状から導入することになったケシンプタ。
わたしが一番乗りではなく、もうすでに試された方も少ないながらいらっしゃるとのこと。
重篤な副作用は起きていないもののコロナが流行している時期には相性が悪いから
と勧めることすらためらったそうですが、そもそもわたしは
- ワクチン接種経歴無し
- 入院率に興味がない
- 最悪死ぬだけだと思っている
そして
- もうこれ以上薬のない患者
だったので試用を快諾しました。
ついでにドイツで調べる予定だった「抗神経抗体症候群」の中身、きちんとした病名もわかるかもしれないとのこと。
きちんとした病名がわかって、きちんとした治療が受けられるのなら、
と医師からガッツポーズ付きで励まされたわたしとしてはもう、即座に飛びつきたいくらいに――は言い過ぎですが――試してみる価値はあると考えました。
最大のミスはこのときに副作用を聞いておかなかったことだと思います。
副作用と無理解に苦しむ1回目投与
純粋にケシンプタの副作用で苦しんだ部分と、看護師さんの無理解で苦しんだ部分があり、それを分けるのはとても困難なので一緒に記します。
わたしの体の前提条件
このページをご覧の方のうちのほとんどは、わたしが顔面と頭皮にしか汗をかけないため自力での体温管理が困難なことをご存知でしょう。
ついでに体温が上がると痙攣することもご存知だろうし、
痙攣状態よりもさらに温めると脱力するので痙攣は抑えられるものの、呼吸筋すら脱力するので蘇生できる確証があるときにしか「無理やり温めて痙攣を抑える」なんて力づくの手段を取らないこともご存知かもしれません。
ケシンプタ1回目投与
ケシンプタ自体は10秒程度の皮下注射であり、その後30分の様子見を行うだけの超時短?なお薬です。
ただし1回目にはソルメルコートかソル・メドロールによる点滴を行います。
これも125mlと、1000ml×3日のステロイドパルスに比べれば少量。
本来であれば30分程度で済むのですが、わたしは最近ステロイド点滴に拒絶反応を起こし始めたので念のため1時間かけてゆっくりと点滴しました。
気分は悪く吐き気もありましたが、いつものように吐くことはなく済みました。
そこからいよいよケシンプタ本体。
皮下脂肪の多い二の腕、太もも、お腹のいずれかに打ちます。
ただ残念ながらわたしの手脚は痙攣を起こしやすいので、お腹1択でした。
そしてさらに残念なこと?に、わたしのお腹にはそれほど皮下脂肪がありません。
内臓脂肪はあるかもしれませんが、痙攣で毎日鍛えられているうえに腹筋運動もするので脂肪らしい脂肪がありません。
なのでお腹の肉をかき集めて打ちました。
痛みは、注射の針よりも肉をかき集めて握られる痛みと、10秒間注射器を押しつけられる痛みがかなり勝ちました。
注射した部分も夕方頃に青タンのように小さく滲み、若干痛むようになった程度でした。
わたしは例のワクチン接種をしていないのでモデ○ナアーム的なものはわかりませんが、中学2年生のときの子宮頸がんワクチン(二の腕への筋肉注射)よりも断然痛みはすくなかったです。
むしろあのときと比べれば「痛みはない」と言ってもいいくらいです。
「これなら大丈夫だな」
そう思って、夜中の痙攣に備えて2時間程度お昼寝(夜寝?)してからが問題でした。
副作用:発熱しやすい
そもそも事前にステロイドを点滴するのはケシンプタに
発熱しやすい
という副作用があるからです。
地獄の副作用体験
夜11時、注射からは半日ほど経った時間。
いつも通りの痙攣以上の暑さを感じ、騒がしくなってごめんなさいと同室さんに心のなかで詫びながら体温を計りました。
この数字を見た時の驚きがわかるでしょうか。
健常者にとっては微熱。
病人にとっても微熱。
ただし人によっては立派な熱。
たぶんそう。
ただしわたしには当てはまりません。
わたしの平熱は35℃代。
36℃代からは痙攣が悪化します。
37℃代など、体温を下げるのが難しいからと徹底的に温度管理しているわたしにとっては「あるまじき」数値です。
増していく痙攣の酷さと始まる硬直。
思い通りに動かない手をなんとか動かして、ようやくナースコールを鳴らした。
けれど看護師さんは来ない。
合計で3回鳴らしたけれど看護師さんは来なかった。
コロナコロナで外来での毎日通院治療ばかりだったため、入院は約1年ぶり。
よく知る看護師さんたちはコロナ病棟か外来へ回っており、
わたしが元医療系であり業務の忙しさを知っているため緊急時にしかナースコールしない
なんてことは当然知られておらず、いろいろあって看護師長さんが聞き取りにきてくれるまでナースコールで誰かが来てくれることはありませんでした。
寝転んでいるとベッドの熱で肌が爛れると思った。
だから座ったけれど、座った姿勢を続けられるほどの「まともな」力はなかった。
痙攣する力はあったけど。
机にもたれかかろうにもレルミット兆候で激しく痛んでできない。
体温を下げるといわれており常用しているツムラ34番・白虎加人参湯を必死で出して、歯でなんとか袋を開けて6袋か7袋か飲んだ。
処方は1日2袋。
オーバーにもほどがあるけれど「漢方だから許して」と誰かに乞うた。
抗痙攣薬も処方限界まで飲んだ。
体温を下げるため冷えピタを首すじに貼り、頭がくらくらしてきたのでおでこにも貼った。
鼠径部にはもう、夜には必ずアイスノンを挟んでいる。
背中も硬直してしまって、そこからはもうできることはなくなった。
そこまで進行してようやく看護師さんが来た。
何時からこうでこれを飲んで…説明するつもりだった。
けれど口をついたのはたったひと言。
「無理です」
究極のドライアイのくせに涙が出てきた。
そこからは新型コロナではないかの問診を受けました。
「解熱剤もってこようか?」と聞かれたので早くもってきてほしかったけれど、その前に問診がありました。
本当に、早くもってきてほしかった。
完全に硬直していたので寝かせてもらったけど、やっぱり触れている部分が熱すぎて熱すぎて
「廊下に寝転びたい」
それしか考えられなかった。
そこからようやく解熱剤としてカロナール500mgをもらった。
アイスノンも追加してもらった。
もはや何が効いたのかよくわからない翌日午前2時。
36.9℃
朝の薬のステロイドも2時に飲むなんて無駄な抵抗をしてみた。
本当に無駄だった。
左手が動くようになった拍子に車椅子へ飛び移り、病室よりは涼しいデイルームで冷たい飲み物を買ってもらって脚に挟んだ。
昼夜逆転するなと説教されながら、朝の5時までそこにいた。
熱は、それ以上は下がらなかった。
痙攣も硬直も引かなかった。
昼間も、硬直で膝を曲げられない状態や一度痙攣で姿勢を変えるとまた硬直して動かせない状態が続いた。
担当医との話し合い
医師と話して絶望に叩き込まれたのは相当久しぶりだった。
絶望の深さでいえば、今回が最も深かった。
入院中は育成のために主治医ではなく若い先生が担当医になる。
もうじき定年の主治医の後釜をどうしても育成したいと、今年に入ってから特に外来でも他の先生の時間が増えて主治医の時間が減った。
今回の担当医は本当に話を聞いてくれないから、どうしたら話を聞いてくれるかをすっと考えていた。
「お忙しいのはわかるんですけど、できる限り時系列順に話すので『あーはいはい』で腰を折らずに聞いてください」
これを先に言わないとどうしようもないと思った。
そこからわたしの体温調節できない体の話と、温まると痙攣する話をするしかない。
9時半に来るというからひたすら待っていたけれど、14時に来たから徹夜で眠い頭でも整理する時間は大量にあった。
疑問で話しかけられると、どれだけ考えていた台詞も全部無駄になった。
ただ質問事項と主張はきっちりできた。
あまりにも先生が「微熱を軽視」するから。
遮ってまでわたしは発熱すると痙攣が酷くなり、後遺症で体温調節もできないからめちゃくちゃ痛いんだと伝えた。
事実、熱はまた上がっている。
夕方、「痛い」とは常に感じながらではあったけれど少し眠った。
起きるとまた熱があった。
37.2℃
解熱剤としてカロナールは2回飲んだし、アイスノンも使った。
冷えピタも使ったし、白虎加人参湯は朝と夜とで3袋ずつ飲んでいた。
にも関わらず熱は下がらなかった。
このメモを記事として整理している今日は、朝から37.3℃ありました。
毎晩微熱が続いていて、毎晩カロナール2錠に朝晩のツムラ34番を3袋ずつに抗痙攣薬を上限いっぱいに、偶然持ち合わせていた筋弛緩剤(ホリゾン/セルシン)2錠を飲み続けています。
日に日に増える副作用
追加の副作用まで出てきました。
翌日の昼間からは首の後ろと背中とに動かせないほどの激しい筋肉痛。
翌々日からは相当な寒気が発生。
- 寒気がするから布団をかぶる
- 布団をかぶると体温が上がる
- 体温が上がると痙攣が悪化する
- 痙攣が悪化すると冷やして対応する
- 冷やすと寒気が酷くなる
副作用の無限ループに陥った。
それとは別に、熱はずっと出ているし、他にも
- 慢性的だけどこれまで以上の疲労感
- 関節痛
- 咳
- 吐き気止めの効かない吐き気
- 筋強直
挙げるとキリがないくらい、とりあえずどこかに書いてあるものすべてに当てはまった。
ちなみに治験者のインタビューで挙げられているもうひとつの副作用「頭痛」は、常にあるのでよくわからなかった。
そんななかで担当医に問うた。
個人差がある薬だと言いながら、なぜその人が頑張れるならわたしも大丈夫だと思えるのだろう。
その人が体温調節できる人かを聞いておかなかったのは失態だったけれど、わたしとしては
- 何日間副作用が出るかはわからない
- 何回まで副作用が出るかもわからない
- 副作用に対しては解熱剤以外どうしようもない
- 解熱剤は効かない
- とりあえず症例がない
聞きたかったことの回答は一応得られたので、伝えた結論。
思わず泣いてしまったドライアイ。
けれど担当医は
問答無用の継続確定。
おい患者の意思はどうした。
わたしは「夜中に酷くなる痙攣をマシにするため」に新薬を試しているのに、現状は解熱剤を使い漢方と抗痙攣薬についてはオーバードーズしていて、それでも抑えられないほど痙攣は酷さを増している。
いつまで続くかわからない副作用を抑えるために薬が増えるのは本末転倒だし、毎日のたうち回りたい――けれど硬直で動けない――ほどの痛みにただ「耐えろ!」というのなら
今までの薬を使っている方がよっぽどマシだ。
相性と副作用への耐性には個人差がある
副作用の出る確率は、ノバルティスの公式発表だと正規とプラセボともに約20%。
ただ微熱から始まる「副作用項目」には、たしかに重篤なものは含まれていません。
とても優秀な薬です。
2021年5月24日から2021年7月23日における最新の副作用症例報告でも、重篤化例は挙がっていません。
けれどわたしのような
- 自己体温調節不能
- 温まると脱力の前に痙攣発作
- 薬への耐性が異常に高い
そんな非典型的な症状を抱えている人には、使用を少し検討してみることを強くおすすめしたいのです。
症状と副作用、重なるとどうしようもありません。
そのすべてを背負うのは、自分です。
なぜ今副作用について書くのか
本ページはあくまでわたしが体験したことです。
決して恐怖感を煽るためのものではありません。
現段階でケシンプタ20mgペンの副作用は現データでは強くなく発現率も低めです。
これまで薬のなかった患者にとっては希望の光ですし、わたしにとっても、エンドキサンに頼る前の最後の薬です。
ただわたしの経験した副作用も「非重篤」として扱われるのだろうな。
命には関わっていないから。
「死にたいほど痛い」とは、日記に何度も書いてあるけれど。
わたしの副作用が想定外に重くあまりにもわたしが不安定になったために結成された精神神経科グループには、薬や服用のタイミングの他に
- 服用した今どんな気持ちか
- 最近2,3か月で「死にたい」と思ったことはあるか
尋ねられました。
服用した今どんな気持ちか
端的には、そうです。
毎日どう思うか聞かれたので、
- 肌が爛れて焼けそうなほど熱い
- 凍えそうなほど寒い
- パソコン関係の仕事なのになかなかできない
- 歩けたのにまた歩けなくなった
- 毎日内出血が増えていく
- 筋線維の切れる音がする
- 死にそうなほど痛い
そう答えました。
「死にたい」と思ったことはあるか
そんなの決まってるじゃないですか。
先生は黙り込みました。
でもそれしかありません。
副作用についてのページ作成意図
このページのほとんどが投与日とその翌日の深夜、スマホすら握れない時間の音声メモです。
めちゃくちゃしんどいときのメモであり、今も相当つらいので不適切な記述もあるかもしれません。
それでもこうして書くのは、同じ病棟に同じ目的――新薬ケシンプタ導入――のために入院する人が急激に増えているからです。
ケシンプタについて、たいがい良いことばかりが書いてあります。
機序を説明するのなら、わたしだって良いことしか書けません。
それくらい、多発性硬化症患者にとっては希望なんです。
ただ新薬を使うにはリスクもあります。
そのリスク、可能性を理解せずに期待だけで試すと、こんな痛い目に遭います。
そういう「期待したからこそ深く絶望した」わたしのような人が減ればと思い、けっこうまだまだしんどいのでよろしくない箇所もあるなと思いながら書いています。
今回のケシンプタは再発寛解型と活動性二次進行型の多発性硬化症に対して承認された新薬です。
ただ多発性硬化症に限らず、今後こうして国内承認されていく薬は多いでしょう。
今回の入院で整形外科のご年配の患者さんからかけられた言葉です。
でも新薬がすべて優れているとは限りません。
新薬だからこそ駄目な部分もあるし、既存薬の副作用が重すぎたがために効果を薄めた「新薬」もあります。
そして何より、新薬の苦しさは誰にも理解できません。
医者にも、主治医だろうが担当医だろうが、理解できません。
「症例がないから」
さらに加えて、
若いからこそ何十年も実験台になり続けることもある
医学の発展は誰かの犠牲のうえに成り立っているから。
今日主治医と話して
と言われました。
わたしも1年待ち続けた薬でこんなことになるとは思っていませんでした。
誰に効果が、副作用が、出るのかわからないのが「新薬」です。
まあ効果が出るぶんには良いです。
ただ
- 「どんな副作用が出るのかもわからない」のは
- 「予想外の副作用で対応できない」のは
- 「医師に病気や薬をわかってもらえない」のは
とても、つらい。
これを書いている現在、わたしは「限界はとうに超えているので限界までと言うのはおかしいけれど、とにかく限界……死ぬまで頑張ってみます」と、継続を決意しています。
ただやっぱり「副作用が未知」なので、
と言われると不安になりますし、新薬を使うときって、
ので、
「人命救助」というよりは「新しい症例」扱いされるんですよね。
これ難病だと慣れていると思うんですが、
コロナへの新薬含め、ケシンプタなどの新薬も次々に出る今だからこそ言います。
新薬は「症例」になる覚悟をしてから使ってください。
安易に使うと、精神的につらいことがあります。
症状を抑えるための新薬導入での副作用止めに薬が増え、せっかく減薬したのに薬漬けに戻ってしまったわたしからは以上です。