本庶佑特別教授がノーベル生理学・医学賞を受賞
京都大学の本庶佑特別教授がノーベル生理学・医学賞を受賞されましたね。わたしは本庶先生とは直接関わりはないのですが、やっぱり京大にいると研究の大変さと面白さはよくわかりますから、結果を出すことのすごさ、素晴らしさを切実に感じるとともに、そういう方が研究されている場所で勉強できることを誇りに思います。
さて、記者会見の様子からそのユーモアあるお人柄に注目の集まった本庶先生ですが、そもそも彼がノーベル賞を受賞した理由となった「PD-1」とは、そして話題の「オブジーボ」とは一体何なのでしょうか。腐っても休学してても京大医学部生のわたしがわかりやすく解説していきたいと思います。
PD-1とは何か
人間の体には、外部からウイルスや菌などの敵が侵入したときに、それをやっつける、外に出す、という働きをする「免疫」というシステムがあります。
免疫に関わる細胞にはいくつも種類があるのですが、今回のノーベル賞で注目されているがん免疫療法に関連する細胞は、大きくわけてB細胞とT細胞の2種類です。
PD-1はそのうち、T細胞の細胞膜上にある免疫チェックポイント受容体で、T細胞の免疫応答を抑制します。
ちなみにPD-1とは、「Program Death-1」の略です。
PD-L1、PD-L2とは何か
そんな中、がん細胞も黙ってやられるわけではありません。T細胞の弱点であるPD-1という手を握ってしまおうと、がん細胞も対抗します。そこでがん細胞の細胞膜上に現れるのが、PD-L1、PD-L2といった、PD-1という手を握るための特別な手です。
ちなみにPD-L1、2とは、「Program Death – Ligand 1,2」の略で、正式な説明でいうと、活性化T細胞上のPD-1受容体に結合することでT細胞の活性を阻害してT細胞による攻撃を抑制するものです。きちんと言われると難しいような。
オブジーボとは何か
ではT細胞が負けてしまって終わりか、というとそうではなく、このPD-1とPD-L1(2)が結合することで、それを目印としてがん細胞を細胞死(アポトーシス)へと導くシステムを作っちゃったんですよね。それが薬になったのがオブジーボです。
従来の放射線療法や抗がん剤の薬物療法、手術ではがん細胞以外にも影響が出てしまっていましたが、このオブジーボのがん免疫療法は標的にする細胞が限られているため、画期的な新薬として注目を浴びています。
だからこそ、この薬を作る元となったPD-1を発見した本庶佑先生にノーベル賞が授賞されたわけですね。
免疫療法は万能か
免疫療法は画期的ですが、まだ副作用が完全に解明されていないなどの課題が残されています。また、免疫細胞にはまだまだ多くの種類があり、抗原(がん細胞やウイルスなど)と抗体(免疫細胞が出す、抗原をやっつける物質)の組み合わせも気が遠くなるほど膨大にあります。どんな病気にもオブジーボのような免疫を利用した薬を作れるわけではありません。
免疫というシステム自体も、弱すぎると様々な病気にかかりやすくなります(易感染性)が、強すぎるとわたしのように自分自身を攻撃してしまう病気(自己免疫疾患)に発展してしまうこともあります。何事もバランスが大事、ということですね。
毎日薬を30錠近く飲んでいる身としては(そしてその全てが治療薬ではなく対症薬)薬なんていらないに越したことはないんですけど、それでも病気に苦しむ人がひとりでも減ることを願っています。
最後になりましたが、本庶佑先生、ノーベル賞受賞おめでとうございます。
治療法のある病気、治療薬のある病気が増えて、多くの人が救われることを切に願っています。
参考:京都大学医学部附属病院呼吸器内科 小笹裕晃先生の授業資料より