今回感想を書かせていただくのは、第33回推理新人賞受賞作家である小林由香氏の2作目、「罪人(つみびと)が祈るとき」
なぜ新人賞を受賞した「ジャッジメント」でないのかといえば、
としか言えません(^_^;)
しかし罪人が祈るときを読むと、ジャッジメントも読みたくなりました。
罪人が祈るとき
以下は裏表紙の紹介文とレビューです。
紹介文
少年が住む町では、三年連続で同じ日に自殺者が出たため「十一月六日の呪い」と噂されていた。
学校でいじめに遭っている少年は、この日に相手を殺して自分も死ぬつもりだった。
そんなときに公園で出会ったピエロが、殺害を手伝ってくれるという。
本当の罪人は誰なのか?
感動のヒューマンミステリー!
引用;作品背表紙より
登場人物
まずはじめにわたしは謝らなければなりません。
これだけ多くの人物が登場し時系列や視点が変わる小説は久しぶりに読んだので、まず整理させてください。ごめんなさい。
主役級
時田祥平(高校1年生)
- 先輩の竜二とクラスメートの冬人、剛から執拗ないじめを受けている
- 慕っていた実母には浮気相手の元へ逃げられ捨てられた
- 仕事人間で家にいない父へと押し付けられた
- 父の不倫相手にはようやく慕い始めたところで「祥平くんとは家族になれない」と言われた
- 以上より「自分は要らない人間だ」と思っている
- 親友は春一だが、春一の妹が竜二たちに暴行されたことをきっかけに疎遠になる
- 十一月六日に竜二を殺して自分も死ぬことを決意
ペニー/風見啓介(40代会社員)
- 息子の茂明をいじめを苦にした自殺(生きていれば高校2年生、中学時代に自殺)、妻の秋絵を後追い自殺で亡くしている
- いじめの犯人を探していた
- パントマイムが得意でピエロの格好をしてペニーと名乗り祥平に殺害の手伝いを申し出る
- 後に直紀と竜二を殺害し、死刑判決を下される
いじめ側
直紀(高校2年生)
- クラスメートの茂明へのいじめ
- ケーキ屋の息子
- 再婚により下に子供ができ、家庭内差別・父親からの暴力を受ける
- パソコン・インターネットに精通、学校裏サイトでいじめと監視のシステムを作った頭脳的主犯格
- 反省の色がなくペニーに殺される
竜二(高校2年生)
- 茂明、祥平へのいじめ中心に描かれる(彼に暴行された少年少女は後をたたず)
- いじめの暴力的主犯格
- 反省の色がなくペニーに殺される
大和(高校2年生?)
- 茂明へのいじめ
- いじめの主犯格と思われていたが、直紀と竜二に従う形だった
- 主犯格の名前を教えろと迫るペニーと竜二らの間で板挟みになり、高校へ入ってから自殺を選ぶ
冬人、剛(高校1年生)
- 祥平へのいじめ
- 竜二に従うことでいじめから逃れるだけで、祥平とは元々仲は良好
ペニー擁護派
丸山(会社員)
- ペニー/風見の元部下的存在
- ペニーが逮捕されてからは擁護の会の一員として働く
擁護派には他、ペニーに救われたいじめ被害者、被害者家族ら多数
映画「IT」のペニーワイズ
まず祥平を相手にピエロ姿をした風見がペニーと名乗るのは、アメリカのホラー映画、原作は小説の「IT」に出てくる「ペニーワイズ」からもじったものです。
ペニーワイズがどういうものかを語るには「IT」という作品がどういうものかを語らなければなりません。
「IT」の話と考察
「IT」はペニーワイズというピエロを相手に子供たちが戦い、それぞれが恐怖に打ち勝ち成長していくというヒューマンホラー作品です。
昔にはドラマ放送されていたので、これにより「クラウン恐怖症」「クラウン症候群」などと呼ばれるピエロへの恐怖症が生まれたほど、ピエロ=恐怖という図式をアメリカ全土に広めることになりました。
これはペニーワイズがピエロ姿で襲ってくるのではなく、子供たちの怖がるものの姿をとって襲ってくるからです。
最終的に映画ではペニーワイズは巨大な蜘蛛となります。
わたしはこれを、恐らくは子供が複数いたために1人1人の恐怖に姿を合わせることができず、多くの人が嫌う蜘蛛、しかも体の小さな子供に対して巨大な体、ということで、視聴者にわかりやすい恐怖を再現したものだと考えています。
ペニーワイズは生きる意思
では話題を戻します。
祥平はペニーがいじめを止めに入ってきた瞬間、「本物のペニーワイズなら良かったのに」と思います。
それほど竜二たちを怖がらせ、やっつける手立てが欲しかったということです。
「殺せよ」と言いながら実は生きることを望んでいた祥平の心情を表している箇所でしょう。
しかしこの「実は生きることを望んでいた」という心理に至るまでにはワンクッションあります。
「死ぬつもりならなんでもできる」というように、生への執着がなければ恐怖もないと考えられるからです。
いじめるだけいじめておきながらいじめられることは考えていない者にとっては、ピエロの笑い泣きメイクに腹話術は不可思議で恐怖の対象となります。
これ以上ないほどの苦痛を与えられている祥平にとっては、これ以上恐怖するものはなくペニーワイズも怖くありません。
竜二たちが去ってからも祥平の死ぬ決意、生きる意思のなさは変わりませんでした。
しかしそれはペニーと話してから、復讐してから死ぬという形におさまることで、しばらくの生きる意思へと変化しています。
これがワンクッションの中身です。
さてここで1つ疑問提起です。
レビュー
先に1つ疑問提起してしまいましたが、ざくっと本題に入ります。それは
- 何が正義で何が悪か
- 何が罪で
- 誰が罰せられるべきか
タイトルからも予想できる議題ではありますが、議題の予想は簡単でも答えるのは相当難しいでしょう。
何が正義で何が悪か
何が正義かが決まればその対極を悪だと決めることができます。
ペニーは殺人を犯していますから、ここでは人を殺すことついて考えてみましょう。
当然ながら、殺人は悪だと答える人が大半ではないでしょうか。
まったくもってその通りでしょう。JK。常識的に考えて。
しかし作中では、殺されたのは「いじめの加害者」であり「人を自殺に追い込んでも反省の色が見えないどころか人を死なせたことを誇る人物」であり、このまま野放しにしておいても犠牲者を増やす可能性が高いとされた人物です。
また被害者たちは
と語ります。
わたしは最近まで「人の命は平等だ」と語ってきました。
しかし「100万の命の上に俺は立っている」という漫画を読んで考えさせられるところがありました。
その通りだなと感じました。
もちろん一律の基準が存在するというわけではなく、政府による命の選別に反対する立場に変わりはありません。
個人にとって誰の命が優先されるのかは、個人の価値観によるだろうという意味です。
わたしは自分がいじめられたことも何度もありますし、いじめの相談を受けたこともありますし、現代のいじめ問題を聞いていく中で犯罪だと感じTwitterやYouTubeで「犯罪の域にあるいじめは少年法ではなく大人同様の裁きを受けるべき」と訴えかけたこともあります。
脅迫を受けたことも、加害者当人と話したこともあります。
加害者と関わることにより第三者から「低俗だ」と罵られたこともあります。
たくさんの経験をしてきました。
そんなわたしにとって、わたしをいじめる相手よりもわたしに味方してくれる人の方が、命の価値は重いです。高いです。生きていてほしいです。極論、わたしをいじめたやつの命なんかどうでもいいです。
この考えは恐らく危険思想で、なんて倫理観のないやつなんだ!道徳心はないのか!と非難を浴びることでしょう。
しかし人間どこかでこういう気持ちは持っていると思っています。
自分を大切にしてくれる人を大切にしたい、恩返しにも似た心理です。
そして恩返しと同一ながら対照的な概念が「ハンムラビ法典」目には目を歯には歯を、でしょう。