このページでは、現代精神医学で「うつ病」と「躁うつ病」とがどのように捉えられ、どのように区別されているのかについて語っていきます。
また「うつ病は治る」「治らない」論争にも、医学的見地から答えを出します。
うつ病とは
「こころの風邪」(誰でもなる可能性がある上、軽視してはいけないという医療者への自戒の意味で)と呼ばれるほどのうつ病。
最近は「誰でもかかる【病気】であり、治ることもある」意味で「脳のがん」と呼ばれることも多くなってきました。
うつ病概論
うつ病は一生のうち10人に1人はかかるといわれています。
うつ病は適切な治療を受ければ、基本的には数ヶ月で治ります。
しかし対応が悪かったり、難治性のうつ病だったりすると長引き(半年から数年)、さらには自殺など命に関わる事態にも繋がりかねません。
またよく誤解されるのは「うつは甘え、ただの落ち込み、気合で治る」などの「うつ病は根性で治る」説ですが、うつ病は「落ち込み」などとは完全に区別されます。
というのも、これら根性論でいう「落ち込み、甘え」などは「悲しい、寂しい」などの言葉にできる「感情」であり、うつ病の「落ち込み」は「言葉にできない、通常の感情では言い表せない」気分の障害だからです。
また生物学的な背景があるので、
- 不眠(早朝覚醒、午前中不快)
- 食欲不振(味が感じられない、味覚はあるが「おいしい」という感動がない)
- 頭痛(頭が重い、締め付けられる)
- 身体がだるい
などの症状もあります。
精神疾患の原因は外因性、内因性、心因性の3つに大別され、生物学的背景はこのうち外因性と内因性に分類されます。
躁うつ病
別名双極性障害と呼ばれる躁うつ病では、うつと躁(ハイな状態)が繰り返し出現します。
躁うつ病概論
発症率は100人に1人と、うつ病よりも少なめです。
一旦寛解(良い状態になる)しても、ほとんどの方が数年以内に再発し、生涯に渡って薬物・精神療法が必要です。
また
- 自殺率が高い
- 薬物依存との合併率が高い
- うつ病との鑑別が難しいことが多い
ことも特徴です。
簡単に
なんやかんや書きましたが、うつ病と躁うつ病との区別を簡単に表にしてみます。
うつ病 | 躁うつ病 | |
原因 | ストレスなど | 遺伝的素因+α |
発症率 | 1/10 | 1/100 |
治療すると | 治る | 生涯薬や精神的ケアが必要 |
症状 | 体重増減(減が多い) 不眠 焦燥か思考制止 疲労 自分を責める 集中力低下 希死念慮 楽しめない 罪業・貧困・心気妄想 行為心迫(やらなきゃ気が済まない)など | ・うつのときは左記 ・躁のときは 多弁・多動 注意散漫 易刺激性 気分高揚 観念奔逸 誇大妄想・幻覚 行為心迫など |
補足 | 統合失調症と関係有り |
なぜ「うつ病は治らない」と思われているのか
ここで問題になるのは、「うつ病は躁うつ病同様に【寛解】が精一杯で、完治はしない」と思われていることではないでしょうか。
そういった「考え」「誤解」の元になるのが、上記の「適切な治療を受ければうつ病は治る」という一節です。
「適切な治療」とは何でしょう。
これがとても難しいところです。
うつ病(だけでなく精神疾患すべて)の原因は外因性・内因性・心因性の3つに大別されます。
この原因を適切に見極め、うつ状態を引き起こしている身体の治療をしたり、精神的ケアをしたりすることは精神科医でも心理士でも大変難しいです。
なので『「適切な治療を受ければ」という前提があまり現実的ではないという現実』が生まれているのです。
これが「うつは治る、治った!」という人と、「うつは治らない」という人との分かれ目でしょう。
うつ病は「治る・治った派」と「治らない派」がいるのではなく、
がいるだけなのです。
これが現代精神医学の見解です。
参考;大学授業精神科学概論、精神科学各論資料及び授業中メモ